大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和31年(ワ)2790号 判決

原告 同栄信用金庫

被告 三起木材株式会社

主文

被告は原告に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三一年四月一日から完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

被告は、昭和三一年一月二四日訴外重田建設株式会社に対して額面金五〇〇、〇〇〇円、満期同年三月三一日、振出地東京都板橋区、支払地同都豊島区、支払場所巣鴨信用金庫池袋支店という約束手形二通を受取人欄白地のまゝ振出し、重田建設はこれに署名することなくして有限会社銀座電機に譲渡し、銀座電機は白地部分にその商号を補充した上これを原告に裏書譲渡をなし原告は現にこれらの所持人である。原告は一通の手形を満期に、他の一通を昭和三一年四月三日(同年同月一日は日曜日であつた)支払場所に呈示したが、いずれも支払を拒絶されたので、被告に対しその手形金一、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する満期の翌日たる昭和三一年四月一日から完済まで年六分の割合による法定利息の支払を求めるため本訴に及んだと述べ被告の抗弁事実を否認し本件各手形は被告が訴外重田建設株式会社に対し、工事費の支払として振出したものゝ一部である。

原告は昭和三一年二月一〇日本件手形のうち一通を訴外銀座電気より譲受けるに際し支払場所である巣鴨信用金庫池袋支店に問合せたところ、信用出来る旨の回答を得たものであると述べ立証として甲第一号証乃至第八号証を提出し、証人重田和十郎同江口一司の各証言を援用し、乙第一号証の成立を認め、同第二乃至四号証は不知と述べた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、

被告が原告主張の約束手形二通を振出し、その主張の経過で(但し、原告え裏書譲渡のされた日は一通が昭和三一年二月一〇日、他の一通は同年四月二日である)原告がその所持人となつたことは認める。

抗弁として、

被告は本件約束手形二通をいずれも見せ手形として重田建設に振出したものであつて、原告はこの事情を知つて取得したものである。即ち被告は、昭和三一年一月二四日訴外重田建設株式会社より懇請され、同会社がその債権者に対し弁解の資料として示す為にのみ使用し他に譲渡することは絶対にないと云う言明を信じ本件手形を振出したのであつてその支払場所として指定した巣鴨信用金庫池袋支店に右の事情を告げて置いた。ところが、原告は昭和三一年二月一〇日銀座電機よりそのうち一通の裏書譲渡を受けるに先立ち巣鴨信用金庫池袋支店に問合せて前記事情の説明を受けこれを承知しながら、右手形を譲受け、満期にこれを支払場所に呈示して拒絶されたのに拘らず、その後同年四月二日にも更に一通を同様に譲受けたものであるから、悪意の取得者というべく、被告に対する本訴請求は失当であると述べ、立証として、乙第一乃至四号証を提出し、証人安斎馨、同海老原福吉の各証言並びに被告代表者小林静の供述を援用し、甲第三、七号証は不知、その他の甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

被告が昭和三一年一月二四日原告主張の約束手形二通を受取人欄白地のまゝ訴外重田建設株式会社に対し振出し、重田建設は、自ら署名しないでこれらを訴外有限会社銀座電機に交付し、銀座電機は受取人欄に自己の商号を記載補充してこれらを原告に裏書譲渡したこと、及び原告がその主張の日にこれらを支払の為の呈示をしたけれども拒絶されたことは当事者間に争いがない。

被告は、本件手形を、いずれも、訴外重田建設に対し、単なる見せ手形として振出したものであり、原告はこの事情を知りながら銀座電機より裏書譲渡を受けたものであるから、被告に対しその支払を求め得ないものであると抗弁するので判断する。

およそ、債務者が所持人の前々者に対し抗弁権を有することを所持人において知つていても、この抗弁が所持人の前者に対抗し得ないものであれば、債務者はその所持人に対し悪意の抗弁を主張することは許されないと解するのを相当とする。けだし、この場合、その所持人の手形取得により債務者の抗弁の対抗が遮断されたわけではないからである。

従つて、本件において被告が訴外重田建設との間に存する被告主張の事情をもつて、原告に対抗し得る為には、原告の前者である訴外銀座電機が本件手形の悪意の取得者であり従つて被告は右の事情をもつて銀座電機に対抗し得る状態にあつたところ、原告が銀座電機より、本件手形を譲受けることによつて、被告の右抗弁権が切断せられ、その為被告が損害を蒙ることになると云う事情を知りながら原告が本件手形を取得したものであることを要する。しかるに、銀座電機が本件手形の悪意の取得者であつたことを認めるに足る証拠がなく、証人江口一司の証言によれば、銀座電機は、本件手形を善意取得したことが明かである。

してみれば、仮に、被告と重田建設との間に被告主張の事情があり、かつ原告が悪意の取得者であるとしても、被告は右抗弁をもつて原告に対抗できないから、原告が本件手形の悪意の取得者であるかどうかを判断するまでもなく被告の抗弁は理由がない。

されば原告が被告に対し本件手形金一、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する満期の翌日たる昭和三一年四月一日から完済まで手形法所定の年六分の割合による法定利息の支払を求める本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部行男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例